

戦力に勝る強大な敵を相手に戦力に劣る主人公がギリギリのところで勝つ!
ただ、敵を弱くしたり、常に新兵器や新戦術で敵を倒すだけの戦術で勝つのとはわけが違う。
ハラハラドキドキと手に汗握るような戦闘を書くために、どうすれば勝つのかを理解していないと現実感が生み出されない!!
しかし、クリエイターの中にはどのようにすればそのような「いい感じの勝負」ができるのか悩んでいる人も多い!
特に大勢対大勢の大規模戦闘を書くことがある戦記物のクリエイターはこのような問題に直面したことがある人もいるのでは無いでしょうか!
そこで、今回は『弱者が強者に勝つ方法』についてのあれこれを【ファンタジー戦略】というシリーズで解説していく!


この記事からわかること
- 【弱者逆転の法則】ランチェスター戦略とは?
- 弱者が強者に勝つための戦略とは?
- 弱者が強者を下した歴史的な事例とは?
Contents
【弱者逆転の法則】ランチェスター戦略とは?
ランチェスター戦略とは、イギリスのフレデリック・W・ランチェスター氏が提唱した戦闘の法則「ランチェスターの法則」が元になった戦略論を指す。


これがどう役立つのか?
それは、ファンタジー小説の物語にあるような大規模戦闘に置いて、読者をグッと引き込む演出となるから。
そもそも物語での大規模戦闘はまさにクライマックス!
読者を120%満足させるには、手汗にぎるワクワク感と期待を超える感情が必要!
ギリギリの勝利。
されど、大戦果を上げて場を盛り上げる!!
それこそ、主人公らしい弱者逆転の醍醐味!!
しかし、強大な敵相手に主人公が逆転勝利を収めるには、まず勝ち方を知る必要がある。
そんな場面で、一味違う”必然の勝利感”を物語に取り入れたいのであれば「ランチェスター戦略」がおすすめ!
弱い主人公が強敵相手に僅差で逆転勝利するのは、名場面中の名場面。
そこを彩る演出はランチェスター戦略を知る前と後では違うもの。
これらを理解していれば、強大な敵との大規模戦闘を書く際にも、どのように勝つのかをイメージしやすい!
ランチェスター戦略が考える弱者の戦略【第一の法則】
弱者の基本戦略は『戦争目的を絞る』
弱者は、戦争において『消耗戦』による『限定戦争』を望む。

そこで勝利するために、限られた戦いを相手に強いて戦うことが重要!
主に以下の要素がある。
局地戦
場所を限定して戦う。
大軍は強大。
されど、大勢の人達を展開できる場所でなければ、その威力は限られる。
例えば、平地で大軍相手に戦おうと思う弱者はいない。
なぜなら、すぐに敵軍の正面戦闘力にやられるからだ。
だが、戦闘地域が谷間であればどうだろう。
左右を山で囲まれた、地域では正面にいる兵士の数は限られる。
ということは、相手の兵の数を揃えさせることができ、大軍としての優位性を無効化することができる。
また、強者の騎馬軍団が強いのであればあえて戦場には湿地帯を選ぶのも手ではある。
なぜなら、馬は人よりも重いため、湿地帯ではかなり足を取られる。
そして、足の遅い騎馬隊は、槍兵の格好の餌となる。
落馬させて倒すもよし、そのまま槍で突き刺すもよしの状態となる。
これが弱者の戦略の1つ目のポイント局地戦だ。
接近戦
次に、弱者は接近戦を行う必要性がある。
これは単純に近ければ良いというわけではなく、肉弾戦・乱戦をイメージしてもらえれば良い。
もっというと兵の量ではなく、兵の質で勝負するのが正しい印象。
基本的に、あらゆる戦略資源、兵士が不足している弱者は、相手に肉薄して兵質で戦わなければならない。
下手に距離をとってしまうと、敵の大量の弓兵に捕捉されて、矢の雨が降らされる。
もしくは、強者の騎馬兵に見つかり、一撃離脱方式で損害を受けることにもなる。
そのため可能な限り、弱者は肉薄した乱戦で、兵質を背景とした戦闘を選ぶべき。
これが2つ目の弱者戦略。
一騎討ち戦
第一の要素(局地戦)でも少し述べてしまったが、一騎討ち戦というのは、一度に相手にする敵を絞り同数で戦うことを意味する。
例えば、強者は大軍であるが故に補給が必要だ。
仮に、中世ヨーロッパを時代背景としていたとしても必ず補給地点が存在する。
そこが村なのか、都市なのか、テントが密集している陣なのかで変わるもののやることは一つ。
輸送隊への襲撃だ。
輸送隊の護衛は強者であれば必ずつけているものの少数が多い。
というのも、輸送隊は足が遅い。
そのため、迅速な攻撃には不向きなもの。
ただ、だからと言って輸送隊なしでは戦場の兵たちは賄えない。
そこを弱者は突く。
輸送隊の護衛が100人だとすると、弱者は自軍の少数精鋭100人で襲撃し、一気に輸送物資を簒奪ないし破壊する。
そうすることで補給路を不安定化させる。
弱者は持てる兵力の質を利用して肉薄して一気に優位性を確保する。
だが、間違えないで欲しいのはこの要素は一騎討ちという言葉の通りに、必ず同数で戦う場合での弱者戦術であるということ。
つまり、寡兵で大軍を破るのではなく、同数で勝利を得るというのがこの一騎討ちの要素。
一点集中主義
寡兵で大軍を破るのがこの一点集中主義の要素。
この要素はいわば、どこを攻めて、どこを諦めるのかを指す。
例えば、強者の大軍は大軍故に同じ進路を取って進むには時間がかかる。
そこを利用して、敵軍を潰すのがこの弱者戦略。
大軍は進軍する際には以下の2通りとなる。
一列に並んで侵攻するか?
それとも、何人かでグループ分けして、目的地に集結する形で進路を分けながら進むか?
この場合、どちらをとっても弱者は好都合。
なぜなら、一列に並ぶのであれば、前列・中列・後列で敵軍が別れることになる。
このため、前列の軍のみ襲撃し、中列・後列が援軍として駆けつけるタイミングで撤退すれば、多少なりとも敵軍を減らせる。
その上、強者の前列の兵数と弱者の集結した軍では同数ないし弱者が前列に比べて多くの兵を指揮できるようになるため、一時的な兵力さによる優位性を得ることができる。
また、何人かでグループ分けして目的地に集結する場合でも同じように言える。
例えば弱者がグループ分けされた大軍の一部を捕捉し、一気に集中的に攻めたとする。
この場合、大軍の1グループは弱者の軍に兵力差で敗北し、霧散する。
そうなると、強者としての敵軍はそのグループ分だけ兵力を総合的に失うことになる。
これらのことから、一点集中は弱者の基本戦術だ。
陽動戦
弱者は、弱いために王道戦術はできない。
王道戦術は王道であるが故に強く、破られにくい。
しかし、王道で戦うことは弱者にはできない。
例えば、敵を殲滅する方法として包囲殲滅が戦略上よかったとしても、弱者の場合、包囲するのはなかなか骨が折れる仕事となる。
特に兵力差が極端な場合では、取れない戦術であることがほとんどだ。
そこで、重要なのは『邪道』という方法。
王道ではできなくとも、邪道なら可能なことは戦場ではよくあること。
例えば、包囲殲滅する兵力こそないが、敵をうまく誘引し、崖を歩かせ側面から一気に少数で押せば、敵軍は崖へ真っ逆さまに落ちることになる。
これは陽動戦の一つであるがもっというと、偽装撤退などもそうだ。
最初は勝負して、適度なタイミングで偽装敗走を行い、敵軍を追撃させる。
その上で、自軍に有利な戦場へ誘引し一気に叩く。
これが王道ではできない邪道な形での勝利を意味する。
ただ、気をつける必要があるのは邪道は必ずしも成功はしないということ。
奇抜でハイリスクハイリターンなこの邪道な陽動戦は、相手が上手ならほぼ間違いなく効くことはない。
故に、陽動戦で勝てば大きく勝利することができるが、相手が引っかからないのであれば、単純に負けて終わるなんてことも十分にある。
しかし、この方法でしか弱者が戦うことができないのも事実。
王道戦術をいく強者を相手に一気に優位に立つには、弱者が陽動戦で賭ける場面も必要だろう!
ランチェスター戦略の弱者戦術で逆転した歴史的な事例
ランチェスター戦略の要素は理解できたと思う。
しかし、実際に戦闘でそのようなことが可能なのか?
そのような事例はあるのだろうか?
そう考え具体的な事例をいくつか紹介する。
なお、ここでは基本的に「中世西ヨーロッパ世界」を舞台に事例を紹介する。
《バノックバーンの戦い》 イングランド王国 vs スコットランド王国
日本でいうところの天下分け目の戦いのようなこの《バノックバーンの戦い》は、スコットランド王国が勝利した。
そもそも、この戦いは王位継承問題で拗れるスコットランド王国に対して、スコットランド貴族たちが隣国のイングランド王国の国王に調停者として助けて欲しいと頼んだことから発生した。
というのも、イングランド王国の王であったエドワード1世は、これを機に王位継承問題で拗れるスコットランド王国を支配できると考えたことに起因する。
これに危機感を覚えた当時のスコットランド王国は、強者であるイングランド王国に対抗するために、戦ったのが《バノックバーン戦い》
スコットランド王国9000人に対して、イングランド王国は25000人で対決した。
沼地や落とし穴などの地形を生かした戦術で平野でありながらも敵の騎馬隊を無力化。
そこへ、シュルトロン隊列でトドメを刺して、スコットランド王国は持てる兵力でイングランド王国軍の兵力を削り切った。
局地戦と接近戦、一点集中主義を巧みに利用した戦術で弱者が強者相手に逆転勝利した戦い!
《アジャンクールの戦い》 イングランド王国 vs フランス王国
次は百年戦争真っ只中のイングランド王国とフランス王国の戦い。
王位継承問題から発展した百年戦争におけるこの《アジャンクールの戦い》は、イングランド王国史上最高の戦術を完成させた戦いだった。
長弓兵による防御陣形「ダブリン戦術」でフランスの騎士たちを次々と倒したこの戦いは、まさに寡兵で大軍を正面から破ったと言っても過言ではない。
この、アジャンクールでの勝利の要因は、以下の2つ。
1つは、地形を利用して側面を守りつつ、敵の主力が常に正面からのみくるようにした点。
もう1つは、長弓兵による一斉射撃による攻撃力だった。
突撃してくるフランス騎士相手に、威力と射程距離の優位がある長弓で攻撃しては消耗させてイングランド王国は勝利した。
この戦略は寡兵で大軍相手に勝利した弱者戦略の典型とも言える重要な参考例。
《ヘイスティングズの戦い》イングランド王国 vs ノルマンディー公国
これまた、王位継承問題で争い合うことになったイングランド王国とノルマンディー公国で、ノルマンディー公国の勝利で終わった。
この戦いの詳細な兵力差は不明なものの、一説ではそこまで差はなかったという説がある。
そのため、この《ヘイスティングズの戦い》は完全に弱者と強者による戦いではないにせよ、弱者戦略が見事にハマった事例として紹介する。
この戦いの肝は、ノルマンディー公国軍がイングランド王国軍の「盾の壁」を瓦解させるのに、偽装撤退を仕掛けた点にある。
戦闘終盤ないし中盤以降に行われたこの偽装撤退で、イングランド王国軍は罠にハマり、隊列を解除してしまう。
このことが起因して、ノルマンディー公国軍は隊列を解き、隙状態となったイングランド王国軍に反転攻勢を仕掛け、勝利した。
これこそがまさに、陽動戦の要素をうまく利用した勝利だった。
《アイン・ジャールートの戦い》 マムルーク朝 vs モンゴル帝国
陽動戦の要素をうまく利用した戦いで最も参考例となるのがこの戦い。
中東世界において、拡大するモンゴルに危機感を覚えたマムルーク朝の防衛戦争として戦ったのがこの《アイン・ジャールートの戦い》
征服するために進軍するモンゴル軍相手に、マムルーク朝の軍は北上し対立。
この戦いは先鋒隊(1万人強ほど)としてのモンゴル軍相手にマムルーク朝が最初から全軍を投入することなく、先鋒隊のみで戦いを始めた。
この先鋒同士の戦いで、数的な優位性を得ていたモンゴルはさらに攻撃を強め、マムルーク朝の先鋒隊を敗走させた。
かに思えた。
実際には、マムルーク朝の軍が先鋒隊としてモンゴル軍を騙し、偽装撤退と一撃離脱を繰り返しながら、陽動してみせた。
最終的に、後方にて隠れていたマムルーク朝の本体と先鋒隊が合流したことで、モンゴル軍は包囲され殲滅。
陽動作戦をうまく起用し、勝利した弱者の戦略。
以降、モンゴルは拡大路線から一転、拡大停止に追い込まれた戦いとなった。
【弱者逆転の法則】ランチェスター戦略
歴史上、名将と言われるだけの優れた将軍・指揮官でも、弱者の戦略を取ることはある。
よって、弱者であるからという理由で必ずしも負けることはない。
むしろ、定石を知りしっかりと守れば、強者に勝つことは可能。
よってランチェスター戦略の弱者戦略をとることで、少数の兵力しか持たない主人公が、敵の大軍相手にギリギリの勝負を挑みなながらも逆転勝利することは可能!!

なお、次は『強者が弱者に負けないランチェスター戦略』を解説する予定!