時間も手間もかかりすぎる!中世ヨーロッパの一般的な本作りとは?

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高峰 遼一
高峰 遼一
どうも高峰です!(@takamineryoiti
どうもアイリです!
アイリ
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記事からわかること

  • 本が貴重な理由(作業量が膨大!)
  • 本が装飾されたのはなぜか?(重要な部分を示すため?)
  • 本の制作費(バカにならない本の価値!)

中世ヨーロッパにおける本の価値は、1冊あたり約160万円ほど!?

当記事で調べた限りでは中世ヨーロッパの本の価値に関する正確な情報は出てこなかった。

 

実際に、中世ヨーロッパと一括りで行っても、5世紀から15世紀と幅が広い。

また、ヨーロッパという多様な国と文化、地域がある中で平均を出すのはかなり苦しい。

 

そこで、比較的近い時代、近い地域に焦点を当ててみた。

・まず時代を、13世紀〜14世紀半ばごろまでを想定。

・地域をイギリス(正確にはイングランド王国)にして調べた。

 

その結果、さまざまな資料を当たってようやく「中世ヨーロッパの本の価値=日本円で約160万円」と考えることができた。

なお、その内訳は次の項で話すものの、当記事としてはかなりイメージしやすい金額になったと考える。

 

また、中世ヨーロッパにおいて、本を作る苦労とはどのようなものかを探るものとして、以下のような作品があるのでおすすめしておく。

《関連記事》転生しても本が読みたい!中世の本作りに勤しむ異色のファンタジーアニメ!『本好きの下剋上』

 

では、次の項からは早速、中世ヨーロッパの本の価値を探る上で、調べ上げた情報を元に、本の材料〜制作に至るまでを一通り書いた。

 

そのため、なぜ中世ヨーロッパの本の価値が日本円で約160万円になるのかという問いには、以下の内容を見てもらえると助かる。

 

本の材料費(羊皮紙から写本、装飾や製本に至るまで)

中世ヨーロッパで本を作り、後世にその記録を残そうと考えた場合、何をどれだけ用意するべきか?

そこが本作りの初めである。

 

まず決めなくてはならないのは、本のサイズである。

15世紀の中世ヨーロッパでは紙のサイズなど統一されているわけではないので、ここから決めなくてはならない。

仮にここではA5サイズと現代人に馴染みやすい単行本のサイズ感にする。

 

サイズが決まると次は紙の枚数となる。

ここでは、一般的な小説のページ数である270ページとする。

また、いかにもな中世本として一般的な冊子体を採用したいと思う。

 

さて、ここまでこれは何がどれくらいいるかは明確になる。

その前に今まで決めた物をまとめる。

  • 本の大きさはA5サイズ
  • 本は270ページとする
  • 本は冊子体(コーデックス)にする

これらを前提に本の制作をしていこうと思う。

紙の準備

中世ヨーロッパでは、紙といえば羊皮紙だった。

そのため、本作りには羊皮紙が必要になってくる。

では、どれだけ必要だったのかというと、1頭の羊から採れるA4サイズは約4〜6枚。

 

ということは、つまり270ページのA5サイズの紙を用意するには、約17〜約12頭(正確には11.3頭)の羊が必要となる。

 

とはいえ、よくわからないと思う。

そこで、当サイトが調べた限りで出た以下の指標を利用して日本円にしてみる。

・14世紀中頃、羊一頭は『1シリング5ペンス』である。(シリング・ペンスなどは中世イングランド王国の通貨単位)

・13世紀の中世イングランド王国の貨幣はざっくりと「1ポンド=72万円、1シリング=3万6000円、1ペニー(ペンスの単数形)=3000円」とされる。

 

つまり、270ページのA5サイズの紙を手にいれるのに羊が約17〜約12頭必要な場合、現代日本円にして約86万7000〜約61万2000円ほどである。

これはすごいわね!?
アイリ
アイリ

 

無論、14世紀中頃と13世紀の貨幣価値はだいぶ差があるものの、イメージを掴むという意味ではあながち間違いではない。

実際に、中世ヨーロッパの正確な貨幣価値を現代日本に置き換えることは非常に困難であるため、あくまでもこれらはイメージとして欲しい。

 

とはいえ、これだけですごいものの13世紀の労働者の年収は2ポンド(上の指標に照らし合わせて考えると:約144万円)。

ということは、仮に労働者が羊を12頭買う場合、年収の42%とほぼ半年分のお金を出さなくてはならなくなる。

無論、その間の生活費に割けるお金はないと考えて。

 

また、13世紀初頭において、1ダース(12枚)の上質な羊皮紙は1.5シリング(上の指標に照らし合わせると日本円で約5万4000円)という記録もある。(ただし、羊皮紙のサイズは不明。)

 

つまり、紙を用意するために、必要な羊を買うには日本円で約86万7000〜約61万2000円かかる。

 

対して、13世紀初頭のデータを用いれば、1ダースの上質な羊皮紙を約5万4000円で手に入ることになる。

つまり、270ページのA5サイズの紙を手に入れるには、13世紀初頭のデータ上(仮にA4サイズだとして)ではA4サイズの羊皮紙約68枚必要で、ダース別に考えると約6ダース必要。

1ダースが約5万4000円なので合計で約32万4000円となる。

 

羊を買うよりも、安上がりではあるものの紙を集めただけと考えるとそうでもないような気もする。

また、13世紀の労働者の日給は2ペニー(約6000円)なので、羊皮紙ベースで買うとしても54日分の給料と実は結構高いとも言える。

13世紀の労働者の2ヶ月分の給料でようやく紙を手に入れただけというのももの寂しいわね。
アイリ
アイリ
高峰 遼一
高峰 遼一
それも、2ヶ月分の給料を全て注ぎ込んでようやくという話だから、生活費はどうするのかという話もあるけどね笑

 

羽ペンの作成

本を作るとは言っても中身がないと意味がないのは当然のこと。

そこで、中身を書くためのペンも必要になってくる。

 

そうなると、よくある羽ペンを作らなくてはならない。

羽ペンはガチョウの羽を加工して作る。

ガチョウは1375年で1羽あたり6ペンスなので、日本円にして1万8000円。(上記の指標に照らし合わせて考える)

また、ガチョウ1羽あたり約10〜12本の羽ペンの材料となる羽が採れるので、羽ぺんは1個あたり約1800円〜約1500円と考えることができる。

これは、1ペニーで約2個の羽ペンが得られる。

高峰 遼一
高峰 遼一
こう考えると12世紀のイングランドで1日に60〜100個の羽ペンを尖らせて用意させていた事務員はかなり、すごいとも言える。

 

そんな羽に対して、ペン先を90℃に熱した砂に15分程度置いておくことで軸が引き締まり、よりペンとして長持ちするようになる。

あとは、ペン先となるようにナイフで削り、中央にインクが流れるように切りこみを入れる。

最終的に幅やエッジを微調整して完成するのが羽ペン。

 

ちなみに、羽ペンは映画のように思ったほど優雅ではなく、短いものが主流だった。

これは、中世の写字職人が急な傾斜台を利用して写実していたことから、ペンが長いと顔にあたり邪魔だったため、短くされることが多かった。

 

インクの調合

また、インクに関しても、没食子インク(虫こぶインクとも言う)が主流だった。

インクに関してはおそらく自家製のものが多かった。

と言うのも、虫が植物に寄生することで虫こぶができる。

これは北ヨーロッパでもあるような虫やハチでも問題ない。

虫こぶができれば問題はない。

 

そうして確保した虫こぶを砕いて、雨水に長期間浸して、タンニンを抽出する。

こうしてできた茶色い液体に鉄を加える。この際、錆びた鉄でなければならない。

そうすると一気に化学反応を起こして、黒く変色する。

 

この時点でもうインクとしての色合いはできているものの、水っぽさがあるのでそのままでは使えない。

ここに貿易品としてのアラビアゴムを混ぜて、粘度を調整してインクにする。

残念ながら貿易品のアラビアゴムがいくらなのかはわからなかったため、ある程度のイメージ額を出すことはできない。

しかし、インクはほぼ自家製であったことからそこまで高くはないと考えられる。

 

写本(文字の筆写)

本にする紙も羽ペンもインクも用意した。

では、次はようやく写本である。

 

本を写本する場合、写字を得意とする中世ヨーロッパの僧侶でも1日に平均して10〜12ページを書き写せた。

また、13世紀の写学生は日給が5ペニーだった。

 

つまり、1日10〜12ページを日給5ペニーで行われたということになる。

無論、これは間違いが一切ないようなもので考える。

 

つまり、270ページの本を完成させるのに単純計算約27〜23日ほど。

費用としては約135〜115ペニーで日本円で約40万5000〜約34万5000円である。

 

とはいえ、これは人件費の部分。

実際には写本する本のレンタル代もある。

 

13世紀半ばごろでは、本のレンタル代はページ毎で1ページあたり、0.5〜1ペニー発生した。

ここでは、わかりやすく1ページ=1ペニーで考えると、270ページ分の本のレンタル代は270ペニーとなる。

これは日本円で約81万円となる。

 

装飾

ここまでで本はその中身としてはほぼ完成している。

しかし、ここではさらに凝ったこと想定してみる。

 

つまり、よくある本の中身が色とりどりに描かされたページを差し込むのだ。

そうなると、どうなるかを考えてみる。

 

例えば、装飾しようと考えた時によく使われたのが金である。

ただ、実際に使われたのは金箔なので、大量にあるとは言っても実際の金の総量は少ない。

 

とはいえ、金は金で高い。

さて、そんな金を使うために下地を整えなければならない。

基本的にはジェッソと呼ばれるものを金箔を貼りたい場所に塗る必要がある。

 

このジェッソは「鉛白、石膏、魚ニカワ(チョウザメの浮袋)またはうさぎのニカワ、砂糖または蜂蜜、アルメニアンボーロ(赤土)」からなるものである。

さて、このジェッソを塗ると3日程乾燥させる。

 

乾燥させれたら、メノウ棒で磨いていく。

金箔を貼るにはジェッソに温かい息を吹きかけ湿り気を与える。

そうするとニカワの接着力がよみがえり、金箔を置いて、布で抑えると固定できるようになる。

あとはメノウ棒で研磨して仕上げていく。

 

この際、彩色をすることもある。

彩色は絵の具の調製から始まる。

 

と言うのも中世ヨーロッパでは絵の具は作るものであり、販売はされていることが珍しかったためである。

さて、そんな絵の具は岩を砕いた粉末や金属などの顔料、植物や動物由来の染料が用いられた。

これらの絵の具は、物によっては細かく砕くだけのものもあれば、抽出作業や加熱処理を要するものもあった。

 

この場合、絵の具を作るのだけでもかなりの苦労と時間、費用がかかったと言える。

 

本のコスト(冊子化に伴う製本作業の制作費+作業時間)

ここまでくるともはや本の材料は全て整ったと言っても過言ではない。

 

とはいえ、まだまだ本としての冊子本となってはいないので、ここから製本作業が始まる。

また、それに伴い、いくつかの材料が増えていく。

と言うのも製本作業において、まだまだ材料があるためである。

 

まず、表紙と裏表紙には1センチほどの厚手の木の板が使われていた。

また、表紙と本文用紙を結合する際にはヒモを利用した。

表紙板には、どのような色合いにも染められるように、よく子牛の革が利用されため子牛の皮が求められた。

さらに、羊皮紙は湿度の変化によって反ったりうねったりする特性があったため、本が開き気味にならないようにと本をとめた状態を維持できるように留め金やベルトも用意する必要性があった。

 

さて、あとはこれらの素材を全て加工して、本として製本作業を行なった。

なお、製本作業では特殊なツールとして専用の道具をいくつか利用したものの、ここでは割愛する。

 

これらの製本作業には職人が1人で作るとして仮定して、1日8時間労働で1冊あたり大体60時間ほど発生した。

つまり、本の製本作業は1冊あたり約8日(正確には7.5日)の労働となった。

 

無論、その間の職人の日給は発生する。

とはいえ、調べても製本職人の日給などは出てこなかった。

 

しかし、ある程度は予想できる。

例えば、1351年には熟練の石工職人や熟練の大工職人、織工などがいた。

そんな彼らの日給は以下の通りであった

熟練の石工職人:日給4ペニー(1351年:日本円で1万2000円)

熟練の大工職人:日給3ペニー(1351年:日本円で9000円)

織工:日給5ペニー(1407年:日本円で1万5000円)

だった。

また、写本などの作業を行う僧侶も日給は4ペニー(1390年:日本円で1万2000円)であった。

 

このことから、上記でも述べたように13世紀の労働者の日給2ペニー(日本円で6000円)と比べても1.5〜2倍近くと推定できる。

そのため、製本職人も同じ日給だと仮定すると、製本職人の人件費は約32〜24ペニー(日本円で約9万6000円〜約7万2000円)となる。

 

もはや工芸品レベル!本が高額なのも納得の価値!

さて、ついに上記の全ての過程を終えて、本が完成したとする。

 

長い時間と費用をかけ、様々な人々の手にわたって作られた「本」はどれぐらいの価値になるのか?

なお、今回は調べられる中で調べた上で、限りなくその時代に近い値を参考値として利用した都合上、正確ではない金額になっているかもしれない。

しかし、これらの費用はあくまでも目安であり、ざっくりと発生するイメージとして考えて欲しい。

 

では以下の本の制作費を全て計算していく。

なお、改めて270ページ分の冊子本を作るとしてかかる費用を前提に考えていく。

また、写本のレンタル代に関しては1ページ=1ペニーと想定して考える。

項目 中世ヨーロッパの価値
(13世紀〜14世紀半ばまで:想定)
日本円(ざっくり)
羊皮紙 約9シリング 約32万4000円
羽ペン 約1ペニー 約1800〜1500円
インク 無料(自家製) 0円
写本(人件費) 約135〜115ペニー 約40万5000〜34万5000円
写本(原本)のレンタル 約270ペニー 約81万円
装飾 +α(豪華な分だけ) +α(豪華な分だけ)
製本職人の人件費 約32〜24ペニー 約9万6000円〜7万2000円
合計 約2ポンド5シリング6ペニー

約2ポンド3シリング2ペニー
約163万6800円

約155万2500円

となる。

高峰 遼一
高峰 遼一
こうやって考えると軽自動車1台分が本の費用と考えるのがベターなのかもしれない。

 

なお、ここで製本したレベルの本というのは、コーデックス形式の冊子本でよく想像される、分厚い中世ヨーロッパ風にファンタジー本のようなものである。

そのため、当時としては本がいかに手間暇をかける作業のもと行われたかがわかる。

特段、写本と写本のレンタル代が本の価値のほとんどを含めているのは当時なりの雰囲気を感じる。

 

実際に、中世ヨーロッパでは手作業による複製しかできなかったので、本を丸々一冊を写本しようと考えた場合、人件費がバカにならないというのは当時としても悩みの種だったと思う。

また、これだけの費用をかけて本制作した場合、その制作時間というのは以下の通りになった。

項目 時間
羊皮紙 68枚で4年ほど(*1枚あたり3週間)
羽ペン 大体1時間(微調整含め)
インク 自家製なので不明
写本 約27〜23日
製本作業 約8日
合計 約35〜31日(1ヶ月ちょっと)

なお、羊皮紙に関しては、実際には複数枚を同時加工する都合上、羊皮紙の生産力によってかなり変動する。

この指標では1枚づつしか作成できないと想定して、4年ほどと記載している。

また、この程度の生産力しかないわけではないので、あえて合計には加算していない。

 


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