今回もシリーズ【ファンタジー経済学】を解説していこう!
さて、今回のメインテーマは「中世ヨーロッパの税金制度」。
「税金」と聞くとちょっと苦手意識や複雑というイメージを持たれやすいが、ここではそういった苦手意識や複雑というイメージをバッサリと切り捨てて、わかりやすく解説していこうと思う!!
と、その前に。
もし、まだ「お金」に関する記事を読んでいない方がいたら、シリーズ第一弾『世界観の構築に役立つ「お金」の知識』を先に読んでおくことをおすすめしよう!
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【ファンタジー経済学】世界観の構築に役立つ「お金」の知識
この記事を読めば、中世ヨーロッパ風ファンタジー世界の税制度を理解できるほか、税制度を逆手に取った暴動や反乱といった展開を物語に組み込むことができるため、創作の幅が今よりももっと広がるよ!
この記事からわかること
- 中世ヨーロッパの農民・都市民・商人に課せられていた税金
- 中世ヨーロッパの税率
- 中世ヨーロッパ風のファンタジー社会で使える税の種類
中世ヨーロッパの税金制度とは?
そもそも中世ヨーロッパではどのような税制度が敷かれていたのだろうか。
中世ヨーロッパの農民に課せられていた税金
- 人頭税
住民一人にかけられた税金。(ただし、奴隷には適応されない。)
- 地代
農民が耕作する農地にかけられた税金。
穀物での徴収の他、金銭や労役で支払われるものもあった。
- 死亡税/相続税
親が耕作していた土地を継承する際に支払う税金。
後継ぎになる人物は税金を納めた後に所有する最良の家畜を領主に献納しなければならなかった。
- 保有地移転料
他の農民に農地を譲渡する際に支払う税金。譲渡前には領主の許可が必要。
- 施設使用料
水車小屋、パン焼き釜、葡萄圧搾機などの施設機械を利用する際にかかる税金。
- 賦役
週に2〜3日程度、長い時で数ヶ月間、領主の直営地で耕作や機織り、運搬などを行う。後の時代に金銭を支払えば免除されるようになった。
- 教会税(十分の一税)
貧者・病人の救済、教会運営を名目に教会が徴収、自身の収入の内、1割を収める税金。(主に物納)
支払わないと村八分などの差別に合うことがあった。
中世ヨーロッパの都市民に課せられていた税金
- 納付金(住民税)
領主もしくは市当局に支払う税金。
- 通行税
都市の出入りにかかる税金。持ち込み物や人数によって収める税金は異なる。
- 賦役
主に財産を持たない者に課せられる税金。
- 教会税(十分の一税)
自身の収入の内、1割を教会に収める税金。支払わないと教会からの支援や教会主催の行事への参加などができなかった
中世ヨーロッパの商人に課せられていた税金
- 通行税
都市への出入りや関所の通行にかかる税金。
- 市場税
定期市に参加する時に支払う税金(出店税)。
- 間接税
流通商品にかけられる嗜好税。
- 保護税
領主より領内での安全を保証してもらう際に支払う税金。
- 教会税(十分の一税)
自身の収入の内、1割を教会に収める税金。支払わないと教会の支援を受けられず、都市への出入り含め審査が厳しくなることがあった。
中世ヨーロッパの税率
中世ヨーロッパの税金は、そのほとんどが農民ということもあり、基本は麦などの穀物を納める事になるが、その税率というのは大体40〜60%を徴収していた。
また、領主の中には戦争などの非常時において必要な武器は非常時税という形で鍛冶屋などから徴収していたこともあった。
加えて、農民には兵として駆り出す血税という方法をとる領主も中にはいた。
とはいえ、税率40〜60%は額面だけで実際には徴税官による横領だったり、農民達によるごまかしなどがあったため実際の徴収率とは異なる。
特に、中世という時代は、横領や不正、腐敗などは日常茶飯事だったこともあり、財政の管理官が不正して、帳簿をつけていたなんてこともある。
そのため、実際に農民達が支払う金額と領主が受け取る税金には、目に見えるくらいの脱税が行われていた。
そのため、脱税をおこなった者を密告する制度が各地で作られ、密告者には脱税を行った者から徴収した資産や財産から一定の金額を報奨金として渡されることもあった。
中世ヨーロッパ風のファンタジー社会で使える税の種類
- 塩税
塩は多くの場合、人間が生命を維持していく中で絶対に必要なので常に一定の需要がある。
そのため、塩を独占販売するか、もしくは塩の販売を行なっている者に対して一定の少ない税率をかければ莫大な富を手に入れることができる。
- 砂糖税
中世ヨーロッパでは砂糖は貴重品の中の貴重品で、主に貴族などの富裕層に売れたため嗜好品としての側面が強い。
故に、嗜好品として税を課すことができれば、砂糖の甘さを一度知ってしまった富裕層は定期的に購入してくれること間違いなし。
- 売上税
主に商人などに課せられる税金だが、売上税の税率を高くしすぎると市場が停滞してしまうため、注意が必要。
また、商人にしか影響がない税のため、増税したいくても民がそれを許さない場合において一定の効果がある。
- 血税
前項でも述べた通りで、非常時にて兵として戦争に参加する税金。
戦争に勝利し家に帰れば納税をしたことになる一方で、戦争中に死んでしまった場合には補償などは受け取れない。
- 船舶税(トン税/ポンド税)
沿岸を襲う海賊と戦うための資金及び防衛維持費を賄うための税金。
沿岸都市や港湾都市など港や船が停泊する場所にしかかからない税金でもある。
計算としては船の大きさや重さ(トン/ポンド)で計算した。
- 印税
商人が店を出す時の許可状や都市民であることを証明する身分証を発行する際にかかる税金。
特段、特別な紙を使用はしないものの許可状として領主の認可が必要な場合には必ず支払わなければならない税金。
また、郵便などの切手などが一番、身近な印税だった。
- 奴隷解放税
所有奴隷を解放した際にかかる税金。大体、人頭税とほぼ同じくらいの税金がかかる。
まとめ
中世ヨーロッパのような社会では、貴族や富裕層などの支配者層が限られてしまうため、横領や不正、腐敗はどうしても起こってしまう。
そうした背景から、領主としては領内を統治するためにかかる費用を捻出するためにどうしても税率を上げざるを得ない。
また、中世ヨーロッパにおいて計算ができる貴族は少なく、自分で領内の財政を事細かく帳票などに記して計算していたなんてことはほぼない。
そのため、領主としては計算ができる財政官を雇い入れ、帳簿をつけてもらうことが一般的だったが、その財政官が不正をしていて、ある意味デタラメな数字を記した帳簿を領主に提出していたなんてこともある。
そのため、増税からの横領などのように悪循環になっていた。
そうした中で一番苦しんだのが当時の身分社会の最底辺にいた農民達だった。
故に、もっとも収める税金が多いのが農民なのはそうした背景があるからであり、また領主としても脱税や横領に対して厳しく罰していたのは、自分の収入に直接的に関わる事柄だったためだった。
もし、中世ヨーロッパ風のファンタジー社会を構築するのであれば、こうした背景を元に、主人公を活躍させて、名をあげるなんて展開も面白くて良いのかもしれない。